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豊洲のエキスパート:トップの料理人たちが東京の新しい魚市場に変わらぬ魅力を感じる訳とは

19 Feb 2021

豊洲のエキスパート:トップの料理人たちが東京の新しい魚市場に変わらぬ魅力を感じる訳とは

初めて訪れる地で食通にとって外せないことは、その地が鼓動する心臓部への近道、地元の市場へと出向くことだ。

 

2018年までは、東京を訪れる者たちにとって渋谷のスクランブル交差点を歩いたり、原宿のちょっと風変わりな裏通りを徘徊したり、刺激的な築地市場を見学することは欠かせないものであった。こうしたスポットは、特に時差ぼけした観光客に受けが良かった。夜中によく分からずに目が覚め、日が昇る前に無性に海鮮が食べたくなるのだ。でもこれは、世界最大の魚市場と世界的に有名なマグロ競りがあった築地市場が、隅田川沿い南東に少し行った豊洲へと新たに移転する前の話である。

 

正式名称「豊洲市場」は、採れたての青果を扱う卸売市場も運営しているが、観光客や卸売業者たちがこぞって集まるのは、広大な他の2つの建物だ。ザ・リッツ・カールトン東京の日本料理「ひのきざか」で2007年から寿司を握り、キャリアでは早咲きの寿司料理長、野村忠昭さんもここに集まる中の一人だ。「いつも1カ月にだいたい3回ほど、朝7時頃に豊洲市場へ出向きます。最高の食材を調達したいので、経験豊富な卸売業者の方々と良好な関係を築くために様々な売り手を訪ねます。」

 

 

他のレストランスタッフではなく野村さん自身がここに足を運ぶのは、これが単なる買い出しとはまるで違うからだ。豊洲で駆使する知識、理解度、そしてそこで下す決断が、この日の「ひのきざか」で提供される食体験の質を左右するからこそ、寿司料理長が自身の板場で抱える責任はとてつもなく重大なのである。実際、野村さんが寿司職人を目指した時代、10年もの修業が必要といわれていた。料理を学ぶことに近道はない、と野村さんは語る。

 

「私の時代は、寿司職人になるのに10年の修行は必須だと言われていたんです。始めは寿司を握るチャンスなんてありませんでした。最初にやっていたことのほとんどが、出前、皿洗い、店の掃除です。そして徐々にネタになる魚の仕込み方を学んで、巻物を作り始めるようになりました。巻物を完璧に作ることができるようになって初めて、茹でエビとシャリ玉を握る練習をさせてもらえて、その次に生魚を握ることが許されました。マグロの握りが修行の最終段階になります。」

 

 

東京を訪れる多くの人が、豊洲で毎日競りにかけられるあのマグロを味わいたいと思っている。「ひのきざか」で提供されるマグロの質は、料理長と卸売業者の関係にかかっているのだ。野村料理長はこう続ける。「マグロを選ぶポイントは、脂の乗り方と量、国産か外国産かなど産地、そして魚体の大きさです。最高のマグロを見つけるために、私が仕入れたいマグロの種類を経験豊富なマグロ卸売業者に相談しています。仕入れ先が既にマグロを熟成させているので、ひのきざかに運んだらすぐにさばきます。」

 

料飲部長のジェレミー・エヴラールは、アジア全体だけでなくパリのミシュランの星獲得レストランでのグローバルなダイニングエクスペリエンスに豊富に携わってきた。使用する素材の質への彼のこだわりはフランスの美食にルーツを持つが、日本での仕入れに関しては野村さんと同じ考えだ。「豊洲市場は世界最高峰の魚市場です。フランスは美食として有名なので、フランス人はフルーツ、野菜、特産物、お花など常に一番新鮮なものを求めます。日本は世界の中でも最高峰の食材かつ季節で変わる旬のものを提供しています。日本はかなり食に恵まれた国ですね。」

 

 

歴史ある築地市場は豊洲へと移転したが、その質と食材へ払う敬意に関して妥協はない。「ひのきざか」で提供される一皿一皿が、そうしたことや最高級の料理を届けたいという日本の強いこだわりを見せてくれる。