特集記事

日本にフランスと同じだけのミシュラン3つ星獲得レストランがある、その所以とは

18 Feb 2021

日本にフランスと同じだけのミシュラン3つ星獲得レストランがある、その所以とは

ザ・リッツ・カールトン大阪「ラ・ベ」のクリストフ・ジベール料理長が、自身のレストランも含め、どのようにして、そしてなぜ日本国内のフランス料理に見事にミシュランの星が集まるのかを語ってくれた。そこには、異国の料理を学び、それを自分なりに解釈しようとすることへの驚くほどひたむきな心、真摯な取り組み、そして情熱があった。

 

577軒 ―― これは、日本国内でミシュランの星を獲得しているレストランの軒数だ。この数字だけでも日本の凄まじさを物語っているが、ミシュランの生みの親であるフランスに唯一並ぶ、29軒のミシュラン3つ星獲得レストランがあるという事実を加えると、このレベルの高さが日本を他ならない食の地にしてくれているということが見て取れる。では、日本はどのようにこの偉業を成し遂げたのか。

 

ミシュラン1つ星を獲得しているザ・リッツ・カールトン大阪「ラ・ベ」のクリストフ・ジベール料理長が、自身の経験からその疑問に答えてくれる。

 

 

日本で20年近く暮らすジベール料理長は、日本の食材、料理に取り組む姿勢、完璧主義からなる三位一体が生み出す見事な成果を深く理解している。ジベール料理長のDNAに流れる非の打ちどころのないフランス料理の腕前は、パティシエだった父譲り。自身のキャリアは、ブルターニュとノルマンディーでの美味しくて美しくも複雑なパティスリーの世界から始まった。その後パリへ、そしてニースへと移り、そこで後に妻となる日本人女性と出会うことになる。

 

「休暇で日本を訪れ、とても興味深い国だと感じました。その際に『ラ・ベ』で食事をしたのですが、その2か月後にはラ・べで働くことになり、私は現在24年間続くこのレストランの3代目シェフになります。」日本人でもそうでなくても、日本にいるシェフたちによく見られるのは、ひたむきな心と真摯な取り組みだ。レストランに、料理に、そしてたった一皿に尽くす心だ。

 

「私は日本の新鮮な食材を使ったフランス料理で、フランスの味覚を再現しています。日本の食材が分かるようになるまでにはたくさんの時間を要します。私の場合、日本の各地域の違いについて知るだけでも5年という年月が掛かりました。」

 

ここで気になるのは、フランス料理と和食の類似点や違いについてだ。「私にとってその二つはまったくの別物です。和食は、食材の質の高さと料理のシンプルさが命です。シンプルであればあるほどさらに上質になる。日本の食材の幅広さ、そしてそれぞれの食材が奏でる味のハーモニーに心惹かれました。一度味わうと、他には何にも驚かなくなるほどです。」

 

ジベール料理長は、日本での料理に対する姿勢にも感銘を受けたと話す。これは、ジベール料理長がまだフランスにいた頃、フランスで「スタージュ」と呼ばれる料理のインターンをしていた日本人シェフたちに見られたことだった。彼らが見せる礼儀、敬意、集中力は皆を驚かせていたという。「ここ日本に来た時に、日本人が高く評価される理由が分かりました。彼らは学んだこと、例えば、パテ・アン・クルートのような難しくテクニックが必要な料理を、非常に高いレベルで実践します。今では多くが、自分たちのアイデンティティを料理に吹き込みます。彼らは完璧を求めますが、毎日少しずつでもさらに腕を磨き、最高峰を目指すのです。」

 

ジベール料理長によると、一日に60人ほどのゲストをもてなすこのレストランのキッチンスタッフ16人の内、フランス人は彼一人だけだそう。スペシャリテには、鮮度を最大限保つためにキッチンの水槽内で保管されているブルーロブスターが含まれる。「ブルーロブスターはコニャックとアジアンソースでほんのりと味付けし、海藻と一緒に蒸し上げます。ブルターニュ出身の者として、海藻は大好物です。好きな一皿をもう一つ挙げるとしたら、日本人のお客様に喜ばれる北海道のアワビです。フランス料理として調理していますが、日本のテクニックを取り入れています。クラシックなブール・ブランのソースにアワビの肝を溶き合わせることで、非常にクリーミーに仕上がります。」

 

 

デザートの例には、フランスと日本の食文化の絶妙な融合について話してくれた。「妻と息子とともに沖縄を訪れた時、小さな素晴らしいパイナップルを見つけたので、その最高の品質を生かした、極めて新鮮な旬のデザートを作りました。出来上がったのは、パイナップルマーマレード、パッションフルーツムース、ココナッツクリームが詰まった、上質なメレンゲです。」

 

ジベール料理長は季節に合わせてその時々の旬の食材により、メニューを変えている。9人のソムリエ、世界中から集められた最高級のワインコレクション、アルザスのベルナール・アントニーのチーズが揃うここは、本国フランスから約9, 800キロメートルほど離れているが、まさにファーストクラスのミシュランの星付きフランス料理レストランである。日本にあるミシュランの星獲得レストランに共通するように、ジベール料理長は彼の仕事に大きな誇りを持ち、献身的に取り組んでいる。この姿勢こそが、日本が食のデスティネーションとして高く評価され、ミシュランの星付きレストランが銀河のごとく集結している所以なのだ。